コーヒーカップに渦ができるわけ

たまには数学の話でもしてみようと思います。

(数学は俺の趣味です。嫌な趣味を持ったものです。。。)

 

コーヒーカップの中のコーヒーをかき回すと、カップの水面には必ず渦が起きます。

あるいは、地球上には必ず無風点が存在します。

また、頭には必ずつむじが存在します。

(ツクツク頭や禿頭は例外ですが。その理由は後ほど書こうと思います)

 

これらはすべて、「不動点定理」というものの具体的な現象だと言えます。

 

 

「不動点定理」とは何ぞ。

簡単のため、ここでは Brouwer の不動点定理というものを紹介しておきます。

 

—————— Brouwerの不動点定理 ——————-

B^n を n次元球とする。

B^n から B^n への連続写像 f: B^n → B^n について,

必ずある P∈B^n が存在して、f(P) = P となる。

ここでの P を f の不動点と言う。

※ n次元球とは { (x_1, x_2, …, x_n) ∈ R^n | Σ_{i} x_i^2 ≦ r^2 }.のことです。

n=1の場合は線分、n=2の場合は円盤、n=3の場合は球のことを指します。

———————————————————-

 

 

イメージを湧かせるために n=1 の場合で次のようなことを考えてみます。

 

いま、長さ1のゴムひもがあって、これを両側からゆっくりと引っ張ってみましょう。

左端はより左側に、右端はより右側に来るように、直線的に(一次元的に)引っ張ります。

このとき、始めの位置から少しもずれていない点が少なくとも1つ存在するぞよ、

というのが不動点定理の主張です。

 

その理由は意外と簡単に説明できます。

いま、x軸上に長さ1のゴムひもを置き、左端をx=0, 右端をx=1としましょう。

引っ張ったあとの位置を f(x) とすれば、閉区間 [0, 1] を定義域とする連続関数 f が定まります。

このとき左端はより左側に、右端はより右側に来るので、f(0)<0, f(1)>1 です。

ここで g(x) = f(x) – x と置けば、g も [0, 1] を定義域とする連続関数であり、g(0)<0<g(1) ですね。

そこで g に中間値の定理を適用すると、

ある 0<c<1 が存在して g(c)=0, 即ち f(c)=c となることがわかります。

この x=c こそが不動点だ、というわけです。

 

そしてこれが一般にn次元空間上の球体について成立するよ、というのが Brouwer の不動点定理です。

この定理の証明はトポロジーの華とも言うべきもので、

きわめてエレガントなものなのですが、ここでは割愛します。

しかしトポロジカルに証明することができるということはつまり、

この定理は B^n の代わりに球体と同相なものなら何でも成り立つことになります。

(たとえば B^2 の代わりに正方形や楕円を選んでもよいということです。)

 

最初の例では、コーヒーカップの水面が円盤 B^2 (もしくはそれと同相な図形)で、

水の動きは B^2 から B^2 への連続写像であり、それは定理より不動点を有するので、

水面には必ず少なくとも1つの渦が存在する、という結論に達します。

 

地球上の無風地帯も同様に、不動点定理よりその存在が保証されます。

 

つむじも全く同様です。

ただし髪が全面に立っている場合や禿頭の場合は、

頭皮上のすべての点が不動点になってしまいます。

これではつむじと呼ぶことはできないですよね。笑

 

 

不動点定理の応用として、たとえば微分方程式 df/dx = f  の解を考えるとき、

関数空間 A の中で f に df/dx を対応させる A から A への写像の不動点が解だと言えます。

このように微分方程式の解の存在は不動点の問題に帰着できます。

 

また経済理論やゲーム理論の均衡解の存在定理などにも用いられているそうです。

不動点定理、恐るべし。

 

 

参考文献:「数学100の定理~ピタゴラスの定理から現代数学まで」(日本評論社)

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若井優也 について

jazz piano, mathematics, igo, shogi.
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コーヒーカップに渦ができるわけ への8件のフィードバック

  1. しおり より:

    こんな話、私の担任(数学教師)がしてました!!「つむじは絶対に一個以上は存在するんだよぉ」とか。たしか、球体には絶対につむじのようなものが必要とか言ってました。つむじがないと球体にならない。(だったかな?)「この人、本当に数学が好きなんだろうなぁ」って思いながらいつも聞いてます。

  2. しおり より:

    二重投稿すいません、あのぅ・・・matheyoungさんのブログ、是非リンクに加えたいのですが。いいでしょうか??

  3. 優也 より:

    rit’zさんこんにちは。rit’zさんはいい先生に恵まれてるんですね。とても羨ましいです。今度は受験生向きの話も書いてみようかな。リンク、ご自由にどうぞ。よろしくお願いしますー。(最近googleやyahooの検索からこのページ訪れる方が何人かいらっしゃるようで。。仲間うちにバレるのも時間の問題になってきました。苦笑)

  4. 絵梨子 より:

    こんにちは。数学っていろんなところで私たちの生活に関わっているんですね。というか、すべて?数学が嫌いじゃ無いのに、いつも赤点ばかりだった私にはとても難しい話でした・・・。ところで、Matheyoungさんのミュージックリストがとても気に入ってしまい、勝手にお気に入りのブログに掲載してしまいました。ごめんなさい。いいですか?ダメといわれても、自分頑固なので。それに、Matheyoungさんの音楽活動、すばらしいですね。夢に向かって真っ直ぐという感じですね☆尊敬します。私の大学にはJazzのクラスがあって、私自身Jazzが大好きでJazz Historyクラスも取っていますし、Alto Saxも吹いています(クラシックしか吹いたことはないのですが・・・。)。私もMatheyoungさんに感化されて、Jazzの実技クラスを取ってみようかな。それには、オーディションを勝ち抜かないといけないのですが・・・。やってみたいです。では長くなりました。

  5. マスマテカ より:

    どうも、初めまして。マスマテカと申します。(と言いながら、数学を専門に研究しているわけではないのですが・・・。)今回のブログの内容をびっくりです。ご自分で勉強されているのですか?また、数学の話題が登場するのを期待しています。気が向きましたら、当ブログへも足を運んで下さい(^^)//(注;数学の用語?らしきものは使うことはありますが、数学の話題はありません。数学者(架空の人物)登場しますが・・・。)

  6. 優也 より:

    >Bliss4Lilyさん数学(広義には自然科学)の歴史を振り返ると、前提とする公理・論理言語・概念、またその捉え方や記述方式は、絶えず変化し、進歩し続けています。つまり数学とは、我々の認識の構造を論理言語化し、その言語を通して認識を再構築する学問ではないでしょうか。そう考えると、数学が我々の日常生活や他の学問と強くリンクし、互いに影響しあうのは、ある意味で当然だと思えます。小難しい話をしてしまってすいません(^^;)リンク、どうもありがとうございます。もちろんノープロブレムです。Bliss4Lilyさんのブログ、読ませていただきますね。>マスマテカさん今大学で数学や物理学などを勉強しています(今回の話題にした位相空間や位相幾何学は独学で少しかじった程度です)。マスマテカさんのブログも読ませていただきますね~。

  7. K より:

    Matheyoungさんはジャズのピアニストを目指していて数学も出来て素晴らしいですね!申し遅れました、数学日和を書いているRieszです。不動点定理、とても楽しませていただきました。また見に来ます(^-^)

  8. 優也 より:

    Rieszさん、訪問ありがとうございます。これからも数学の話題投稿することあると思うので、ぜひまた遊びに来てくださいねー。

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